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2019年2月12日火曜日

半分解展研究所レポート(2019/01/18)

2月 12, 2019














こんにちは、エンジニアの鶴巻です。
1月18-19日に開催された半分解展研究所のレポートを書きたいと思います。

半分解展研究所とは?

衣服標本家の長谷川彰良さんの展示会です。

100年〜200年前の衣服を半分・分解したものが「標本」として展示されています。

全ての展示品は、分解したパーツからパターンを抜き取って
縫製された試着サンプルが用意されています。

そのため、200年前の衣服を実際に着て体験することができます。

ゲストトークショーや、長谷川さんによるZOZOオーダーメイドスーツのデモもあり、情報量が盛りだくさんのイベントでした。

展示品

展示品のひとつひとつに、解説とその服にまつわる長谷川さんのエピソードが丁寧に綴られていました。洋服作りについて、ど素人な私ですが、弊社の衣服づくりのコンシェルジュである宇藤さんが一緒だったので、いろいろと教えてもらいながら展示品を楽しむことができました。

ツナギになるストームコート

こちらはストームコートの展示の説明文です。暗い写真で申し訳ないです。
説明文に掲載されている写真がストームコートで、第2次世界大戦下のイギリス軍特報バイク部隊のユニフォームとして採用されたコートです。
写真では膝丈のツナギに見えますが、下の写真がストームコートの試着サンプルです。

このロングコートが、ボタンのはめ方でツナギになり、快適にバイクを跨ぐことができるコートに変形するようです。機能性の良さにびっくりしました。

ストームコートについての長谷川さんのブログ記事はこちら

背筋が自然と伸びるフランス革命の市民の服

フランス革命を起こした市民たちの服「カルマニョール」を試着してみました。
着用前は、腕が後ろの方についていて、背中が窮屈そう、という印象。
実際に試着すると、かなりの猫背の私が自然と背中がシャキッとなりました。

とても感動したので、この日に私が着ていたコートとの比較写真を載せておきます。

わざとらしく見えるかもしれませんが、どちらも自然な姿勢です。

カルマニョールを着用した左の写真は顎が上を向いており、背筋が伸びた姿勢。
それに対し、自分のコートを着用している右の写真は顎が下を向いて、猫背に。

着用した服によって、背筋の伸ばし方が自然に変わるというのは、目からウロコな体験でした。

デモ:ZOZOオーダースーツから視る「着心地と運動量」

ZOZOオーダースーツをターゲットに、着心地と運動量を着眼点とした長谷川さんの解説とデモがありました。noteにも詳しく書かれています。

「わきの下がピタリとはまっている」ことは、腕を動かす時の着心地の良さが劇的に違うことを長谷川さんはnoteでも今回のイベントでも強く語っています。「靴紐を結ぶ動作」のデモがありましたが、「靴紐を結ぶ動作」が服に高い負荷をかけることを初めて意識しました。また、「わきの下がはまる」服として、100年前のブルックスブラザーズのモーニングのデモもありました。100年前でも人間の体は同じなので、「着心地の良さ」の原理は普遍的であることを知りました。

「わきの下がはまる」を実現するためには正確な採寸と緻密なパターン設計が必要なのだそうです。ZOZOオーダースーツは、オーダーメイドならではのポイントである「わきの下がはまる」ジャケットはつくれるのでしょうか。ぜひnoteを読んでみてください。

ZOZOSUITによって誰もが自分で「正確な採寸」ができ、それにピタリと合わせた衣服の生産ラインが確立すれば、オーダーメイドと量産というアンビバレントな衣服の製造が両立し革命的だ、とワクワクしました。(長谷川さんの展示品の説明文より、欅坂46好きが垣間見えた気がしたので、欅坂46の楽曲である「アンビバレント」という表現を使ってみました)

トークショー:「 技術職が伝えるのは 」

縫製、パタンナー、デザイナーのそれぞれのプロの技術を持つ3人の方のトークショーもありました。テーマの通り、専門性に特化した「情報発信」をしていることが登壇者の共通点です。

「なぜ発信するのか」を切り口に、モデレーターの長谷川さんがどんどん深掘りかつ直球の質問を投げかけます。登壇者の方がアドリブで答えていく緊張感とゆるさの混じったトークショーでした。

登壇者についてはこちら

「なぜまっすぐに縫う必要があるのか」「パタンナーのこだわりを知ってほしい」「技術は全てツールと考えている」の3つの言葉が特に印象に残っているので、それについて触れたいと思います。

なぜまっすぐに縫う必要があるのか

これは、縫製のプロである風間さんの「プロの定義は、まっすぐに縫うこと」という言葉への問いです。これに対して「まっすぐに縫うということは、パターン通りであるということ」というパタンナーの萩山さんの回答が印象に残っています。

パタンナーはデザイナーが意図したものを再現するためにパターンを作る。縫製者はパタンナーの意図を再現するためにまっすぐに縫う。デザイナーが目指すものを作り出すためには、パタンナーさんと縫製者の方のプロとしての技術が必要だということを改めて実感しました。

パタンナーのこだわり

「パタンナーのこだわりを買う人にも知って欲しい」

パタンナーの萩山さんは、あまり誰も発信してこなかった「パタンナーにしかわからないこと」をnoteで発信しています。パタンナーの方のこだわりは1mm以下の世界のこともあるそう。ただ、買う人はなかなかそこに気づけない。

造り手のこだわりを知ることで価格の設定の説得力にもつながる、ともおっしゃっていました。「服の見どころ・腕の見せどころ」と題して、ファッション初心者にも分かりすい解説記事をnoteに書かれています。 ファッション無知な私にとって、これから服を納得して購入するために大変ありがたい記事ばかりです。(まだ全部は読めていないです)

技術は全てツールと考えている

企画デザイナー・プランナーのうにくまさんは、「時代に合わせて持っている技術をアップデートするにはどうしたらいいか分からない」と困っているアパレル業界や工場向けに情報を発信しています。

うにくまさんはデザイン、パターン、マーケティングなど様々な方面に知見を持っている方です。「それらの技術は全てツールと考えている」という言葉が印象的でした。

おそらく縫製工場さんなどが持っている技術力も「洋服を作る」ためのツールの1つなのだと思います。シタテルが世の中に提供しようとしているのも服作りのツールで、そして自分自身の職であるエンジニアもIT技術というツールを使う仕事です。

自分はIT技術を使うことが無意識に目的になってしまうことが多く、「技術は全てツール」はハッとさせられる言葉でした。手段が目的になってしまいやすい点は、IT業界でも衣服業界でも「技術者」に共通し、それが自然と下請け体質に繋がってしまうのかもしれないと勝手に思いをめぐらせました。

まとめ

おそらく、アパレル業界の中でもマニアックな展示であり、衣服におけるそもそもの知識のない私にとって、半分解展研究所はとてつもなく情報量の多いイベントでした。私がつかみ切れたのはほんの一部分だと思いますが、知らなかったことや普段意識していなかったことに気づくことができ、とても楽しかったです。弊社の衣服づくりのプロの宇藤さんに解説してもらえたことも大きかったです。「地の目」や「トワル」など教えていただいて初めて知る言葉でした。

展示自体がリバースエンジニアリングであり、衣服づくりの「技術」に主にスポットが当たっていたので、専門的なことは分からずも、ITエンジニアを重ねて共感する部分もありました。ただ、ITの技術はハードウェアもソフトウェアもどんどん進化していきますが、洋服がソフトウェアで人間がハードウェアだとすると、人間の体は200年前と変わらない。好まれる洋服のシルエットは時代とともに変わっても、「動いた時の着心地の良さ」という普遍的な技術を、昔の服から知ることができることに面白さを感じました。

今後は衣服製作やアパレル業界の知識を増やしつつ、また長谷川さんのイベントが開催されたら足を運びたいなと思っています。